血も涙もない【短編集】
すると、かいらは突然持っていたバックを俺に手渡した。
バックの端にいびつな字で“内村海羅(うちむらかいら)”と書いてある。
「あたしのおなまえ、こうかくんだよって、おにいちゃんがおしえてくれた」
この子の兄と言っても、この字からして、まだ幼いな。頑張って書きましたって感じの字だ。
海羅って子供にはなかなか難しい漢字だもんな。
「まえからね、ずっとれんしゅうしてたんだ。あたしにかんじおしえてあげるっていってたの。でもね…」
その瞬間、幼いこの子の顔が歪む。
「くるまにひかれてちんじゃった」
車に引かれて死んじゃった。
海羅は今確かにこう言った。
こんな歳で抱える哀しみにしては、でかすぎるんじゃないかって文句を言っても、きっとこの子の耳にしか届かないんだろうけど。
酷すぎないか。
残酷すぎないか。
なんなんだよ、この世界は。