血も涙もない【短編集】
でも、そこで一つの疑問が生まれた。
今の言い方だと、練習してたのに漢字を教えられなかったみたいに聞こえる。
でも、実際はこのバックにしっかりと刻んである。
それに初めの質問は何故兄が俺と同じスケスケなのか、だった。
……もしかして。
「でもね、おにいちゃんもゆーれいになったんだよ」
海羅の言葉にトクンと心臓が嫌な音を立てた。
「いつもままのしんぱいばっかりしてたのにね。このまえ、あたしのバックにおなまえかいてから、いったの」
“海羅はいつも物を無くしてお母さんを困らせるから、お兄ちゃんがお名前書いといてあげるね”
“もうお母さんを困らせちゃダメだよ。海羅がお母さんを守ってあげてね”
“ばいばい、海羅”
“お母さんを頼んだよ”
「おにいちゃんにばいばいっていわれたの、はじめてだった」
それは、多分成仏したんだろう。
全てをこの子に託して、
頑張れよと背中を押して、
君の兄はやり残したことも、
言い残したことも、
無くなったんだろう。