血も涙もない【短編集】
その言葉に後ずさっていた足が止まった。目の前には彼女のマンションを見上げたまま涙を浮かべる海羅の母親の姿。
「どうして…」
どうして貴方が泣いてるの?と言おうとして止めた。
その涙の答えはすぐに分かったから。
「あの子が傍に居るって知った時は嬉しかったもの」
思い出しているんだ。
息子が死んでからも心配で会いにきていると知ったその瞬間を。
アイツもこんな風に泣くかな。
でもこんな涙なら、いいか。
「海羅」
「ん?」
「そんな心配そうな顔してんな」
俺は海羅の小さな鼻を摘まむと、海羅は一瞬ぎゅっと大きな瞳を閉じて、少し涙目になりながら俺を見る。
「俺ならもう大丈夫だ」
そして、その瞳に満面の笑みを写してやると、赤い鼻を抑えながら海羅も笑う。