血も涙もない【短編集】




その時だった。
なんの前触れもなく
現れたのだ。




「花梨(かりん)?どうしたの」

「え、いや…」


このマンションに向かって歩いて来る、人影が二つ。
そして、一人が口にしたその名前にピクリと肩を揺らし海羅からそっちに視線を移す。



「翔琉の匂いがする」



そこに居たのは、

紛れもない、

愛しい人。



「…花梨」


口から盛れた声は、
彼女の耳に届くことなく
ポツリと落ちて消える。

その様子を見ていた海羅が何度か俺と花梨を交互に見てから、花梨の元に近付いて行く。

そんな海羅を俺は慌てて止めた。


「そっか。きっと、花梨の近くにいるのよ、翔琉くん」

「だろうね」


花梨は隣にいる友達に、
笑いながら俺の話をしていた。

笑ってる。
笑ってるよ。



「アイツ、あたしが居ないとダメだから」


花梨は俺のこと
なんだって知っている。

そうだよ。
お前が居ないとダメだ。
お前の隣に居たい。
お前が好きだ。


「だって、あたしのこと…」

「…花梨が好きだ」




「大好きだもん」







< 53 / 67 >

この作品をシェア

pagetop