はらり、ひとひら。


同意するように春風に舞った桜色が目に溶ける。なんだか─桜吹雪を見ていると、桜子さんの声が聞こえる気がするんだ。


「杏子!おはようっ」


たたたっ、と駆け寄ってくる足音。飛鳥だ。出会った頃より背が伸びて、すらりと大人っぽい。正直ちょっとうらやましい。


「ちょっとー、早く来てよ!!」


振り向いて手招きした飛鳥が呼びかけると、渋々走り出す一つの影。


「朝っぱらから走らせんなよなー。お、杏ちゃん~おはよっ」


秀くんの屈託のない笑顔も変わらない。向日葵みたいな眩しさは健在だ。


「ん?なんだよ杏ちゃん、オレのこと見つめちゃって」


はっとしたような表情になって、自分を抱いて頬を赤らめる秀君。


「まさかオレに惚れちゃった!?」

「んなワケあるかいっ」


軽く殴る真似をすると、変な声を出して秀君は飛鳥へと泣きつく。


「うえ、キモいからこっち来ないで。しっしっ」

「ひどくね!?」


夫婦漫才で朝からにぎやかだ。多分言ったらこれ、飛鳥から怒られちゃうから言わないけど。



それにしても、綺麗な青空。


「……ん?」


あれ?

見間違いかと思って、ぱちくりと瞬きをしてみる。





< 666 / 1,020 >

この作品をシェア

pagetop