さらば、ヒャッハー
「い……い……や……」
のっぺりとした声にどこか旋律がある。楽譜をビリビリ破いたような途切れ途切れにせよ、よく聞けば黒い何かが歌っているように思えた。
「よ……に……つ……か……すべ……」
「こんばんは」
挨拶をしたのは渉だった。隣人への挨拶にしろ、尚も黒い人はこちらを向かない。
渉からは会釈をと先ほど言われたにしろ、してくれたら嬉しいですと付け加えたあたり、強制ではない。
そも、会釈したところでこの黒い人が気づくわけもないだろう。殻に籠ったに相応しく、自分と外界を隔絶している。もしかしたら、あの黒い人の脳には自分しか映っておらず、他はまっさらなのかもしれない。
「……」
どうするか迷った秋月だが、山中のマナーもあってか会釈する。兄さんがやるならと冬月も続けてした。