美味しい時間
会社の前に着くと、少し怖気づく。
スーっと大きく息を吸い込んで、もう一度気持ちを落ち着かせ、フロアへと
向かう。
重い足取りで階段を登り終えると、今一番会いたくない人が壁にもたれかかり、
腕を組んで立っていた。
あっと思った時には遅かった。私にいち早く気づいた課長は足早に近づき、
私の腕を掴むと引っ張るように休憩所まで連れて行った。
「課長! 腕が痛いんですけど……」
「なぁ、部長の用事って何?」
あぁ、そっか。美和先輩にそう言ってと頼んだったっけ。
でもまさか、フロアに戻る前に出くわすとは思ってなかったから、そう追求
されてしどろもどろしてしまう。
「えっと、それはですね……。あっ! え、駅まで書類届けてきました」
あまりに酷い答えに、課長も呆れ顔だ。
しかし、それ以上は何も聞かず、腕を離してくれた。
「わ、わたし、戻りますね」
顔も見ず、その場から離れようとすると、鋭い声が私を立ち止まらせる。
「藤野っ! まだ話は終わってない」
はぁ……と小さく溜息をつき、振り返ろうとした……その時。
「あれ? 藤野? こんなとこで……」
目の前に同期の寺澤が立っていた。