美味しい時間

公園から家まで、会社の近くを通らず帰る。その間に何度か携帯が鳴ったし、
メールの着信音も聞こえていた。それらを一切無視して、一目散に自宅に
向かう。
知らない間に早足になっていたのか、家の前に着いた時には息が切れていた。
部屋に入って冷蔵庫まで急ぎ、水のペットボトルを取り出すと、一気に飲み
干した。

「うぅ~生き返るっ」

冷たい水が身体中を潤していった。
椅子に腰掛けると、ホっと息をついた。そのまましばらくぼ~っとしていると、
静かな部屋に携帯の着信音が鳴り響いた。その音に驚きながらも、カバンの中
から携帯を取る。

「……課長だよね……」

ディスプレイを見なくても誰からの着信か想像できるが、確認の為にゆっくり
と覗くように見てみる。

「やっぱり……」

同じ会社だし、直属の上司。会社では絶対に顔を合わせるわけだし、話もしな
くちゃいけない。いつまでも無視し続けるのは難しいだろう。
そして昨日までは、ほとんど毎日のようにここに来ていたんだから、電話が
かかってくるのは分かっていたことだった。
何を話せばいいか、普通に話せるか不安はあったけれど、意を決して通話ボタンを押す。

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