美味しい時間

別に誰のためでもなく、ただ作って食べることが大好きだった。
課長のために作れなくなってしまったことで、あんなに好きだった料理が
できなくなるなんて……。

「思ってたより、私、重症かも……」

そう自嘲気味に笑い、お弁当を作るのを止め、食材を片付ける。
食欲もなくなってしまい、朝食はどうしようかと悩んでいたら、ふと母の
口癖を思い出した。

ーーー朝食は忘れずに必ず食べなさい。ーーー

忙しくても、嫌なことがあって元気がなくても、朝食を食べてお腹を満たせば
少しでも活力が湧いてくる。それが原動力になるんだから……。

母はいつも明るい笑顔で、そう私に話してくれた。
母の笑顔を思い出し、急に声が聞きたくなってしまう。
思わず携帯に手が伸び、掴んだところで手を止めた。

ここで母の声を聞いてしまったら、私きっと、実家に帰りたくなる……。

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