美味しい時間
もう一度課長に指示を仰ごうと口を開きかけたら、電話の向こうの感じも
変わったのが分かった。
『はい、今行きます。……悪い、俺も仕事だ。その書類はファイルして営業に
持って行ってくれ』
それだけ言うと、電話は切れてしまった。
課長、今大事なときなんだよね。
そんな時に、いちいち連絡して来いなんて……。
こんな指示もらうために、毎回連絡しないといけないんだろうか。これは
単に課長の嫌がらせではないのかしら。
そんな事を考えながら仕事を再開させようとしたら、誰かが私の横に現れた。
鼻につく匂いが漂ってくる。私はその相手の顔を見ずに、誰なのか気付いて
しまった。
「藤野さん。今の電話のお相手、東堂課長かしら?」
やっぱり……倉橋さんだ。いつも同じ匂いを振りまいて歩いている。
この匂い、苦手だ。
無理やり笑顔を作り、彼女の方を見る。
彼女もやはり笑顔だが、私と同じで、心の中は別のものみたいだった。