美味しい時間

何となく落ち着かない気分ながらも、何とか金曜日を迎えた。
今日は課長が大阪から戻ってくる日。どんな顔で会えばいいのか……。
主任から辞表の話は聞いているのだろうか……。
次から次へと、不安材料が頭の中に浮かんできてしまう。
机に突っ伏していると、ポンポンと頭を叩かれた。

「百花、課長帰ってきたよ」

私の耳元で囁くと、楽しそうに自分のデスクに戻っていく。

「先輩、また私で楽しんでる……」

恨めしそうに先輩を睨むと、その肩越しに会いたくない人の姿が見えた。

「課長……」

一瞬目が合ったが、すぐに逸らされてしまった。
心臓を鷲掴みにされたような痛みが、身体中に走る。瞼を固く閉じた。
すると、耳を劈くような高い声がフロア中に響いた。

「東堂課長、おかえりなさい。お疲れ様でした」

その声に顔を上げると、まるで新婚の妻のように課長の世話を甲斐甲斐しく
やく倉橋さんの姿が目に飛び込んできた。
< 192 / 314 >

この作品をシェア

pagetop