美味しい時間

会社の外に出ると、空はまだうっすら明るい。

「はぁ……。憂鬱だよ」

なんで課長と買い物なんだよ……。
まだ諦めつかず、とぼとぼと家に向かって歩き出すと、外回りから帰ってきた営業部で同期の寺澤淳弥と出くわした。

「おうっ藤野、久しぶり」

「寺澤くん、今帰り? お疲れ」

彼とは入社式の日に席が隣だったこともあって、部署は違うけれど仲のいい男性社員の一人だ。

「毎日残業でってボヤいてたけど、今日は早いじゃん」

「まぁ、いろいろあってさ……」

「俺、報告書出したら今日上がりなんだけど、飯、一緒に行かないか?」

「ごめん。行きたいんだけど、今日は予定ありなんだ」

「そっか、残念。また誘うわ。じゃっ!」

そう言って手を上げ、会社の中へと入っていった。
彼は同じ年なのにしっかりしていて、何でも相談できる、ちょっとお兄ちゃん的存在だ。

課長との約束がなかったら、軽く居酒屋で飲みながら、愚痴を聞いてもらいたかったのに……。

って、課長との約束がなかったら、こんな時間に帰れなかったよね……。
まったく、トホホな気分だよ。

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