美味しい時間
「百花のお母さんか……。早く会いたいな」
「私のお母さん?」
「もちろんお父さんにも」
お父さんとお母さんに会いたい? えっと、それって……。
慌てて振り向くと腰にあった手が頭を掴み、無理やり元に戻された。
「ほらっ、よそ見するなよ」
オムライスを乗せる皿を手渡すと、自分の席へと座ってしまった。
聞きたかったことが聞けずモヤモヤした気持ちが残るけど、今は料理に集中
集中。
形が崩れないように注意しながら、フライパンから滑らすようにオムライスを
移動させると、ケチャップを手に取った。
まだ私が子供の頃、オムライスが出来上がると急いで母のそばへと向かった。
ワクワクしながら母の手元を見ていると、オムライスに文字を書き始める。
最初の頃は“ももか”と名前が多かったけれど、賞をとったりすると“おめで
とう”、発表会の前日だと“がんばれっ”なんて書いてくれたこともあった。
今でも忘れられない、思い出の一つだ。
そして今日は、私が課長のために文字を書く。
もう書く文字は決まっている。胸がドキドキして、手が震えてきた。
ケチャップを両手でしっかり掴むと、一文字ずつ心をこめて文字を書いていく。
“大好き❤”
うん、我ながら上出来。最後の赤いハートが可愛いよね。
白いスープボールに野菜たっぷりのコンソメスープをよそった。
出来栄えを確認して小さく頷き、ふぅと息を吐くと、その2つを持って課長の
前へと運んだ。
「お待たせしました、どうぞ」
コトンコトンと、皿とスープボールを置く。
課長の目が見る見る大きくなると、次の瞬間その目が大きく弧を描き、幸せ
あふれんばかりの笑顔が出来上がった。