美味しい時間
「寺澤もいることだし、ちょうどいい。みんなに報告だ。俺は昨日、藤野に
プロポーズをした」
おぉ~、やっぱり言っちゃうのね。
照れくさいやら嬉しいやら、複雑な気持ちだ。
でも主任や美和先輩、課の同僚たちから祝福の言葉を受けると、自然に笑顔が
こぼれる。
そんな中、寺澤くんだけが悔しそうに舌打ちをした。
「とは言っても、結婚はもうしばらく先だ。俺が大阪に行ってる間、藤野に悪い
虫がつかないよう、よろしく頼む」
そう言い終えると、寺澤くんの顔をちらっと一見する。
「悪い虫って、俺のことっすか?」
「お前も含めてってことだ」
寺澤くんがバツが悪そうに頭を掻くと、その場に一斉に笑いが起きた。
しょぼんとしている寺澤くんを美和先輩が慰める。
彼には申し訳ないが、その場の雰囲気が和んだ。
「それにしても、課長が大阪支店長のなる話を聞いたときは、驚きました」
主任が、少し寂しそうにつぶやく。
「その件については、報告が遅くなって申し訳なかった」
課長が頭を下げると、一変して雰囲気がしんみりしてしまう。
クールで仕事に対して妥協を許さない厳しい面を持つ反面、仕事仲間や後輩を
思いやる気持ちも人一倍持ち合わせているからか、課という枠にとらわれず慕わ
れていたのが分かる。
多くの場面で助けられ力になっていてくれた、頼れる上司がいなくなる。そんな
思いが、みんなの口を閉ざした。
「おいおいっ。そんな顔するな。お前たちがいるから、俺は安心して大阪にいけ
るんだからな」
そうじゃなきゃ、大阪支店長の話なんて受けやしない。
そう言って見せる笑顔は、そこにいる全員に自信を持たせるのに十分なものだっ
た。