美味しい時間

でもその目は、怪しい光を放ったままだ。
一体何をする気なんだろう……。恐怖に身体を縮こませていると、左腕を掴み
引っ張り上げた。いきなり引っ張られたせいで、ふらふらと課長にぶつかった。
そしてそのまま肩を抱かれてしまう。
さっきの言葉といい、肩を抱く行為といい、普段のクールな課長からは想像でき
ないのか、みんな驚きでぽかんと口を開けている。

「東堂課長って、情熱的な人だったんですね……」

主任が目をトロンとさせてそう言うと、おぉ~と声が上がった。

「もしそう見えるなら、藤野が俺をそうさせたんだな」

またもや大きなどよめきが上がる。
何を馬鹿なことを……。この場でそんな事言うなんて。ほんと、穴があったら
入りたい……とは、まさにこのことだ。でも穴なんかどこにもないわけで……。
あはは~。もう成るように成れってんだっ!!
開き直ると気持ちも楽になって肩を抱かれままきちんと立つと、課長を見上げ
見つめた。
私の変化に驚いた顔を見せたものの、それも一瞬のこと。
すぐに意地悪な笑みを浮かべると、肩を抱く手に力を込めた。

「お前が俺のものだと、誇示しておかないと」

「今更でしょ……」

「寺澤みたいな奴が増えたら厄介だ」

へ? 寺澤くん? 何で今、彼の名前が出てくるんだろう?
もしかして……と、フロアの入口を見てみると、寺澤くんが立っていた。
課長と目があっているのか、挑戦的な笑みを浮かべて歩いてくる。

「東堂課長、おはようございます。昨日は大変だったみたいですね」

「大変? 藤野、大変だったか?」

私に振らないでほしいんですけど……。
課長の顔を睨みつければ、まあまあと言わんばかりに肩を優しく擦った。







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