美味しい時間
私と課長に対する詮索や興味も3日を過ぎると収まりを見せ始め、普段通りの
仕事に戻ると、あっという間に課長が大阪に行く日が5日後に迫っていた。
今日までの一ヶ月半近く、職場も生活もかなり変わった。
職場はと言うと……。
営業からの移動で、引継ぎをするために新しい課長がやってきた。それに伴い、
何故か寺澤くんが一緒に移動してくることになった。
新しい課長曰く、彼が営業で培ってきたノウハウと人脈は、ここの課で大いに
役立つと……。
もちろん課長は、猛反対っ!!
また一波乱起きるかと思ったけれど、諸々の事情を知らない新しい課長は穏や
かに事をまとめ、結局寺澤くんの移動は決定してしまった。
「心配だっ!!」を連呼する課長をなだめるのに、大変だったこと大変だったこと
……。
でも新体制がおおかた整うと、課長も安心したように自分の身の回りの整理を
し始めた。
「東堂課長、何かお手伝いいたしましょうか?」
相変わらず、お姉様たちは課長の近くを陣取っている。
倉橋さんがいなくなって、近づきやすくなったのも一因してるんだろう。
以前みたいな、あからさまな敵意は示してこないけれど、近づいて追い払える
雰囲気でもない。
課長も課長だ。無碍に断れないのか、いろいろお願いしちゃったりしている。
私を気にする素振りは見せるものの、何となく腹立たしい。
けれどそれも後少しの間のことと思えば、我慢できる範囲のもの。
私も大人になったもんだっ。
そんな自分に満足していると、横から声をかけられた。
「藤野、お前の顔見てると飽きないわ」
そ、そうだった……。
隣の席は、寺澤くんになってしまったんだった。
それまでそこにいた同僚は、寺澤くんの軽妙な口車に乗せられて、一番端の席に
移動させられた。
寺澤くんって、案外課長に似てるかも……腹黒さが。
もちろんこれにも課長は猛反対したのだけれど、大阪に行ってしまう課長には
そこまでの権限も無くて……。
寺澤くんの一本勝ちって感じで終了!
「やっぱり寺澤の移動は阻止すべきだったっ」と今更言っても遅いことを、いつ
までもグジグジ言っている課長は、ちょっと可愛かった。
そんな事、口が裂けても、課長には言えなけど……。