美味しい時間
課長が大阪に行く3日前の今日は、明日運び出す引越しの荷物の整理に追われて
いた。広い部屋に住んでいる割には、シンプルが好きということもあって家具は
少ない。しかし、仕事のための資料や本の類は、びっくりするほど多かった。
箱に、詰めても詰めても一向に終わりが見えてこない。よくもまあ、こんなにも
集めたもんだっ。
そして、もう一つ厄介なのが……課長だ。
ちょっと片付けては、私を後ろから抱きしめる。
「なあ、俺のこと忘れてない?」
「はぁっ!?」
真横にいるのに、忘れるわけないでしょっ!!
「眼中にないって感じだからさ」
って、いつからそんな甘えキャラ?
それに、誰のための荷物整理だと思ってるんだろう……。
「眼中にないんじゃなくて、集中してるの。ほら、私A型だから几帳面さが出ち
ゃうというか……。中途半端は嫌なのっ」
私の身体の前で組まれている手の甲を、ギュッと摘み上げる。
「痛たタタタッ……」
「慶太郎さんも、早くそっちの荷物片付けて下さいっ」
口調は強く顔は笑ってそう言うと、渋々動き出した。
男の人って、こういう作業、苦手だよね。早くここを片付けて、課長を手伝って
あげよう。
「なぁ百花」
「うん?」
「あと3日だな……」
「…………」
そんなこと言われなくても分かってる。考えないようにしていたことを、口に
出して言われてしまえば、嫌でもその事で頭の中がいっぱいになってしまう。
片付けのペースが一気にスローダウンしてしまった。