その両手の有意義な使い方
高遠がひょい、とバッグを拾いあげ、付いてもない埃を払う。
ハイと手渡されたところで、文佳は正気に返った。

「あたしの家?!」

「Aだから」

しれっと高遠が云ってのける。

文佳は乱暴にバッグをひったくった。

「じゃあ参考までに訊くけど、Bは?」

「俺の部屋」

文佳はバッグで高遠のふとももを叩いた。

「ダメ?」

ふっと真剣になって、高遠が文佳の顔を覗きこむ。

ダメ、と口を開きかけて、文佳は動きを止める。

嘘をつくのは、否と云いたくないから。
嫌とも、できないとも、…嫌いだとも云いきれないから、嘘をついてごまかす。

否定したくはない。
―好きと云われるその分だけ、嫌われたくなくなったから。

嫌われるのが―怖い。
いま向けらている好意を失うのが怖い。

「俺は、フミさんを傷つけない。信じて」

少し言葉に迷い、ためらいながらゆっくりと、高遠は呟く。

「少しだけ、フミカさんに近付かせて」
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