悪魔の熱情リブレット
疲れに気をとられていた彼女は改めて景色を眺める。
「うわー!絶景だ!」
この場にシルヴェスターがいたら、お決まりの無表情を和らげていただろう。
アウレリアの感想が、ティアナとここを訪れた時のものと同じなのだ。
「君が好きだった町。生活していたところだよ」
アウレリアは木の柵に近寄ってシャッテンブルクをじっくりと眺めた。
「…ごめんなさい。やっぱり思い出せないの。それに、よくわからない…」
風になびく黒髪を押さえながら、アンドラスに向き直る。
「私はアウレリアで、今住んでいるところがあって、好きな人もいる。前世を思い出す意味がないし、義務もない…。あなたはなぜ、私に記憶を求めるの…?」
「なぜって…?言ったでしょ?愛し合ってたって」
首に下げているアンドラスの十字架も風に揺れた。
「だから私のことを辱めたの!?目隠しまでして…!私は嫁入り前なのに、最低よ!?」
「嫁入り前?人間の男になんか君は渡さないよ」
アンドラスは彼女の頬に触れた。