悪魔の熱情リブレット

全身の力を込め、勢い良くアンドラスを突き飛ばした。



「私は、あなたを信じてた…。『天使様』を…信じてた…!!!!」



涙が流れる。

彼女の頬に一粒、二粒…。

アンドラスは目を見張った。

「信、じて…た…?」

過去形の信頼。

壊したのは自分。

(今の僕は…信じてすら、もらえない…?)

信頼できない相手をどうして愛せようか。

アンドラスは不意打ちを喰らったように呆然となった。

(天使のままでいたら、ずっとティアナの「大好きな天使様」でいられたのかな…?)

間違ったのだろうか。

愛し方を間違ってしまったのだろうか。

(僕はただ…ティアナに愛されたかっただけ…)

もう、永遠に愛は返って来ないのだろうか。



――記憶が戻らない限り…




(記憶がなくても惚れさせてみせるって言えない自分が恨めしいよ)

自分が好かれるような性格ではないと理解している。

だから、縋る。

(今が賭け時か。僕のこの命…)

少女の幸せ。

自分の未練。

断ち切れない思いを抱えて生きるのは、想像以上に残酷で。


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