悪魔の熱情リブレット
第十九幕



 町のシンボルから飛び降りたアンドラス。

ただ落下しただけでは当然死にはしない。

しかし、この時のアンドラスは死ぬつもりだった。

死という消滅。

「大好きだよ…!」

そう言ってから体を重力に預けた。

落ちながら、彼は十字架を握り締めた。


「ティアナに…幸あらんことを…」


そして、十字架を自分の心臓に突き刺した。

天使に戻った時に与えられた聖なる道具。

(これで…死ねる…)

彼女を思い焦がれる苦しみから解放される。

落下しながら血が流れ出る。

もうすぐで、地面に激突する。

彼は目を閉じた。



「アンドラス!!!!」



(え…?ティアナ…?)

少女の声が聞こえた瞬間、体が思い切り地に叩きつけられた。

(ティ、アナ…)

動かせない体。

意識が霞む。


(君と、出会えて…)


命が消えていく。


(君を、愛せて…)



――嬉しかった…









時計塔の鐘が鳴った。

今まさに失われようとしている命のために、奏でられたかのように。



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