窓際のブラウニー
「怖くて、なかなかこの部屋に入れなかったよ。熟年離婚されちゃうのかな、俺。」
鈍感だと思っていた夫も、さすがに何か感じていたようだ。
不安そうな顔で離婚を恐れる夫を目の前にして、私は複雑な気持ちになった。
夫が「怖い」と言うなんて。
夫は私が離婚を言い出すと、あっさりとそれを受け入れる人だと思っていた。
特に必要としていない妻からの「話がある」と言う切り出しで、ここまでいろんなことを想像した夫。
「お袋がね、泣いていたんだよ。夕方電話が来て、早く帰ってきなさいって。あんなお袋だけど、お前のことものすごく好きなんだな。真千子さんがいなくなったら生きていけないって、言ったんだ。」
夫は私が話す隙も与えない。
夫の声は、ここ最近聞いたことのないような声だった。
お義母さんが泣いていたなんて。
お義母さんが、そんなことを言うなんて、信じられなかった。