。・*・。。*・Cherry Blossom Ⅲ・*・。。*・。



あたしの言葉にキョウスケは一瞬目を開いたものの、


「……で?」


と目を細めて聞いてきた。


「え…?…で、って…」


「お嬢の記憶を疑うつもりもありませんが、それは過去のことでしょう?


そもそもタチバナの共同経営者の彩芽さんはドクターの恋人ですよ。


誰がどこかで繋がっていたのか、なんてあまり関係ないんじゃないですか?」


キョウスケは無表情に淡々と言って、


「そ、そりゃそうだな…」


あたしはしょんぼりとアルバムを閉じた。大発見だと思ったのになぁ。


キョウスケの言った通りだ。


叔父貴が高校生のときなんて十年も前の話だし、今あいつが…タチバナが何をやってるのか知らなきゃ意味ないよ。


「会長に聞くってのもありますけれど」


キョウスケはちょっと考えるように顎に手を置いて


「でも、ここに来るってことは会長が何者か、少なくとも向こうは知っていたようですね」


「どー見ても筋もん……には見えないんだけどな…


千里のおっちゃんの方がよっぽどヤクザっぽいぜ」


「そう言えば一ノ瀬くんも見たことある…って言ってましたよね?」


「あ、うん…でもあいつもあたしと負けず劣らずバカだから、あんま参考にしない方がいいよ?」


「お嬢に言われたら一ノ瀬くんも可哀想ですよ」


キョウスケが真顔で突っ込みを入れてきて、あたしはキョウスケを睨むとキョウスケは慌てて顔を逸らした。


そのときだった。


トントントン…二階から階段を降りる誰かの気配があった。


「やべ」


ここでこそこそ話してるのがバレたら、また変に勘ぐられる。


「ごめん、キョウスケ。起しちまって」


「いえ、俺こそすみません。わざわざ教えにきてくださったのに」


「ううん。思い出したこと早く言っちまわないとあたし忘れっぽいし~」


あたしはそれだけ言うとさっと踵を返した。


「お嬢」


部屋に向かおうとしていたあたしをキョウスケが呼び止めた。


あたしは顔だけを振り向かせると




「ありがとうございました」





キョウスケはうっすら微笑みながら僅かに手を挙げた。


「あ、うん!」


“ありがとう”なんて言われること、あたし何にもしてないけど、キョウスケは優しいから


きっと気を遣ってくれたに違いない。


あたしはアルバムを抱えなおすと、部屋へ急いだ。




< 747 / 776 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop