。・*・。。*・Cherry Blossom Ⅲ・*・。。*・。
家に帰って台所に向かうと、小さな鍋を持ちながら戒がコンロの前に立っていた。
台所には戒だけ。
ぅうわ!何でこんなときに限って一人なんだよ!
いつもは騒がしいぐらい誰か居るってのに。
「…あ、お帰り。お疲れ」
ちょっとぎくしゃくした様子で小さく手を挙げて、戒が無理やり笑う。
その不自然な笑顔は、まだ胃痛が治まってないからだろうか、いつもより青白く見えた。
「う、うん。ただいま!」
あたしもぎこちなく手を挙げて挨拶。
「おかえり」
戒がもう一度言って、今度はゆっくりと頬を緩める。
今度の笑顔は作り物めいてなくて…心からの笑顔に思えたんだ。
あたしの大好きな
戒の笑顔。
「ただいま」
あたしがもう一度小さく言うと
「何だよ、このやり取り」
と、言っていつものように屈託ない笑顔で笑う。
ははっと笑って、でも戒はすぐに思いなおしたようにぎこちなく俯き、冷蔵庫を開ける。
「お前が料理?何作るんだよ」
何だかすぐ離れたくなくて、あたしは強引に話題を振った。
「料理って程でもねぇよ。牛乳あっためるだけ…
あー…ちょぉ腹壊してんねん」
戒が苦笑を浮かべて腹を撫でる。
壊してるのは腹じゃなくて……胃だろ?
まだ全快してないだろうに、必死になって胃炎を隠す戒。
辛いだろうに、あたしに心配掛けないように…
だってあんた…また関西弁。
そう言いたかったけど、言えない。
「コーヒーは響輔に止められてるし、んで牛乳」
戒は力なく笑って、牛乳のパックを取り出した。