桜花舞うとき、きみを想う


「よいしょ、あれ、こいつ、どうなってるんだ」

戸は、がたりと音はするものの、どんなに力を込めてもびくともしなかった。

最初の戸は簡単に外れたのに、となおもガタガタやっていると、突然ある記憶がよみがえった。



それは何年か前のことだった。

その日もたしか、今日と同じように、母が兄に戸を見てくれと頼んだような気がする。



ぼくは兄の後ろにくっついて行って、手伝うでもなく上がり框に座り、兄が戸を外す様子を見ていた。

土間にはいつくばるようにして奥に詰まった埃を取り除く兄に、ぼくが、

『そっちの戸も外せばいいのに』

と言うと、兄は、

『こっちははめ込んであってさ、大工じゃなきゃそう簡単に取れない仕組みなんだ』

と言っていた。



< 109 / 315 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop