桜花舞うとき、きみを想う


しばらくすると、次々と先輩兵が入って来た。

ぼくは朝食用の食料を準備しながら、磯貝さんが来ても平静を装わねばと緊張していた。

けれど、いつまで経っても磯貝さんは現れず、やがて朝食の調理が始まったとき、どこからか、

「宮崎主計長、磯貝の姿がありません」

と声が上がった。

「磯貝は体調不良で今朝早くから医務室で休んでいる。磯貝の仕事は、それぞれ分担するように」

淡々とした宮崎さんの指示に、ぼくは、ごくりと唾を飲み込んだ。

(まさか……)

ぼくはてっきり、磯貝さんは、宮崎さんの言う『過去の被害者』のために、見せしめとして皆の前でしごかれるものとばかり思っていたが、そうではなかったのかもしれない。

思わず宮崎さんを凝視していると、目が合った。

しかしそれは一瞬で、宮崎さんはすぐに目を逸らすと、

「さあ、手を休めるな」

とぼくらを促した。



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