桜花舞うとき、きみを想う
30分後に兵舎前の広場に集合と告げられたぼくは、部屋にひとり残された。
清水さんはそうとは言わなかったが、おそらく手紙を読む時間を与えてくれたのだと思う。
ああ見えて優しい人なのだと思いながら、ぼくはベッドに腰掛けて、封を切った。
広田からの手紙には、自分も招集されることになり、手紙が届く頃には戦地に赴いているだろうということと、大学の友人たちの安否について書かれていた。
要点を的確にまとめた広田らしい文面で、久しぶりに彼の理論ばった声が聞こえたようで懐かしかった。
きみからの手紙には、家族が無事であること、そして、生活は大変ではあるが、工夫次第で何でも楽しめるとわかったと書かれていた。
家がなくなり楽しいはずなどないのに、不自然に明るい文章から、ぼくに余計な心配をかけまいとするきみの気遣いが感じられた。
封筒の中には、手紙のほかに、写真が1葉、同封されていた。
両親、義両親、そしてきみが、笑顔で納まった写真で、ぼくはそれを目にした途端、目頭が熱くなった。
みるみるうちに視界が滲み、涙が零れ落ちないよう顔を上げて、窓の外を見ると、雲の切れ間から青空が覗いていた。
空は、いつの間にかぐんと高くなっていた。
もうすぐ春が終わるのだろうか。