桜花舞うとき、きみを想う


「そういえば、ぼくと同じ日に令状が届いたと言っていましたね」

ぼくは腕立て伏せをやめ、その場に胡坐を掻き、永山さんを見上げた。

「覚えていてくれたんですね」

「あの日のことは、今でもときどき思い出しては気にしていました。やり場のない怒りを永山さんにぶつけてしまったこと、本当に申し訳なく思っています」

今更ながら、ぼくは永山さんに詫びた。

「そんなこと、お互いさまですよ。ぼくだって中園さんのお兄さんの戦死に対して、ご遺族に気の利いたことも言えず、あとで後悔していました」

永山さんは、言いながらぼくと向かい合って同じように胡坐を掻いた。

ぼくは、永山さんの言葉にほっとした。

すっきりしない別れをして以来、心の片隅に引っ掛かっていた棘が、すっと抜け落ちたような気分になった。

「本当にすいませんでした」

どちらからともなく、また頭を下げた。

同時に顔を上げ、目が合うと、ぼくらは笑った。

そして、少し話しませんか、と誘われ、ぼくは永山さんと兵舎へ入った。



< 245 / 315 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop