桜花舞うとき、きみを想う
鼻をすすりながら、なおぼくの袖を離そうとしないきみの手を、ぼくはそっと握った。
「気を悪くするでしょうけど、わたし、幸一さんが出征するって聞いたとき、礼ちゃんじゃなくて良かったって、そう思ったの」
普段よりいくらか早口だったのは、それがきっと口に出してはいけないと思いつつも堪え切れなかった本音だったからだろう。
きみは軽く唇を噛んで、バツが悪そうな顔をしていた。
「わたし、礼ちゃんとこれからもずっと一緒にいたい」
「それは、ぼくだって」
「兵隊さんになんてならないって約束して。来年もみんな並んで縁側で西瓜食べましょうね」
きみの瞳から、大粒の涙が落ちた。
「千疋屋に、とびっきりの西瓜、買いに行きましょうね」
「アヤ子」
「ねえ、約束よ、ちゃんと守ってね」
「アヤちゃん」
ぼくは、声を押し殺して泣くきみを、抱き締めてやることしかできなかった。