アゲハ~約束~

3.

 夏が、終わろうとしていた。


 といっても、気温はまだまだ夏気温。

 終わるのは、天国のような休みの日々。



 ルフナがいなくなった園の中ははじめ、どこかひっそりとしていて、子供たちの声がいつもより沈んでいた。


 けれど、もともと彼はいなかったはずの人で。

 時間がたてばそれはすぐにもとの大きさに戻り、誰もが以前と変わらない生活を送っていた。



 アゲハも、変わらない。


 いつもどおり、読書場で本を読んでは、冷めたようなため息をつくだけ。

 ただ一度だけ彼女は、ポツリとこぼしたことがあった。




 ――――飛行機が落ちたら報道されるくらいのビックネームって、どれくらいかしら、と。




 それを聞いて、思わず幸人は微笑む。


 ―――なんだかんだいって、本当は、信じようとしているんじゃないか?と。


 約束というものを遠ざけて、頑なに拒んできたアゲハ。




 けれど今、それをはじめて、信じようとしているのではないかと――・・・




 期待に似た思いを持ちながら、彼はアゲハの言葉に、「ルーなら大丈夫」と、何の確信も持てない一般的な言葉を吐き出した。



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