ひとまわり、それ以上の恋
「合鍵を渡したのは僕なんだし。君はずっと傍にいてくれたんだね」

「……めったに休むことなんてないって、体調崩したところなんて見たことないなんて言うから。ちゃんと健康診断してくださいね」

「年の差なんて……という割に、人をオジさん扱いするもんだね」
 皮肉を込めて言うと、彼女は慌てて弁解をした。

「それは……心配だから」
「それにしてもひどい声だ」

 自分が、じゃなく、円香の方が。さっきから妙に擦れていて、気だるいようなセクシーなような。

「友達とカラオケにでも行ってきたの?」
「違います」
 ハスキーな彼女の声に笑うと、彼女はムッとしていた。

「冗談だよ。風邪をうつしたのかもしれない。すっかりよくなったみたいだから」
「ほんとですか?」
「あぁ」
「……良かったです。心配しました。来週大事な会議まで間に合いそうですね。それじゃ、私は……帰ります」

 慌ただしく、彼女はここを出る準備をしようとする。僕は咄嗟に彼女の腕を引き留めた。

「あ、……」
「今日は休みだろう。ゆっくりしていってもいい。一緒に食事をしよう」

 気まずくならないように配慮したつもりだが、彼女の瞳は物憂げに揺れていた。

「たくさん作ってもらったようだけど、一人じゃ無駄になる」

 引き留めた腕を離して彼女の判断に委ねると、ホッとしたのか、彼女の肩のラインがおりたのが見えた。

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