ひとまわり、それ以上の恋

リビングの方へ出て行くと、テーブルに食事が用意されていた。カレイの煮つけと和風のロールキャベツ、それからパイナップルが切り分けられている。傍には一枚のメモが残されていた。

『しっかり食べないからですよ。秘書がいなくたって、ちゃんと自己管理くらいしてください』

「……自己管理、か」

 昨晩何も食べていなかった僕は、さっそく箸を伸ばした。親しみやすい家庭の味がする。あたたかく染みわたるような。ガラスポットに準備されていたハーブは彼女がブレンドしてくれたのだろう。

おそらく風邪で弱っている身体によいものをチョイスして。僕はケトルで沸騰したお湯を注ぐ。疲弊しきった心をやさしく宥めるような心地のいい香りがする。

 いつだったか、彼女がマローブルーのハーブティを淹れてくれたときのことを、思い起こした。

 円香が秘書の役割としてくれているのではないことぐらい分かる。ほんの些細なことから彼女の感情が流れ込んでくる。彼女の想いはこの間のことで痛いぐらい伝わっている。

 大人のフリをして言い訳ばかりをして彷徨っているのは僕の方だ。なんて情けないのだろう。

 アラーム音がして振り返る。気だるい朝、妙に頭に響く。ベッドルームの方からだ。すると間もなく彼女は現れて、僕の姿を見つけて慌てていた。

「ごめんなさい。ベッドに私……」
「ああ、いいんだよ。気付かなくてごめん」

「私こそ……勝手に入ったりして」
 遠慮がちに彼女はそう言って、僕についてくる。
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