ひとまわり、それ以上の恋
「さっきはごめん、イタズラが過ぎたね」


見透かされてしまう方が、ずっと辛い。

私なんて歩いているだけでも笑ってしまうぐらい、スーツすら板についていない子供に見えるんだろう。

新人だもの、これからだもの、しょうがないじゃない。心の中だけで拗ねておく。

でも、お茶の一つも淹れられないなんて思われたくない。ちゃんと研修だってしてきたんだし、私を選んだことを後悔させたくないし、がっかりさせたくない。

ケトルを借りて、お湯を沸かす。それすら危なっかしいとでも思ったのか、市ヶ谷さんは、カウンターキッチンの隅に寄りかかり、声をかけてきた。

「一つだけ。言いたいことがあるときは、遠慮なく何でも言うこと。これは命令だ」

 慣れない私へのやさしい気遣いか、手際の悪さを叱っているのか、それともからかっているのか、どれも混ざっているように見え、私は言葉に詰まったけど。

 どれか一つに絞るとしたら……彼の思いやりなんだと思う。彼がやさしいのなんて知ってる。

 だったら、遠慮なく。


< 29 / 139 >

この作品をシェア

pagetop