ひとまわり、それ以上の恋
「お疲れさまです。ごめんなさい……だらしなくて」
「あら、目が真っ赤ね。いいのよ。最初のうちは慣れなくて大変ね」
峰岸さんはそう言って、シュシュでまとめていた黒髪をサラリとほどいて、涼しげな目元を緩ませる。
「……峰岸さんにまで手伝ってもらって、忙しいのにありがとうございました」
新人の私ではこなせない分を、峰岸さんがフォローしてくれていた。
「ううん。それよりリップがはみ出てるわよ。帰りの誘い文句には気をつけて」
クス、と笑われて私は忠告通りに引き出しから鏡を出してチェックする。
……誘い文句って。峰岸さんみたいに色っぽい人だったら男の人だって誘うんだろうし……絵になるんだろうけど。
「じゃあ」
とにこやかに立ち去った綺麗な女性の後ろ姿にほぅっと見惚れてしまう。
私なんて男の人に何か言われたらぎこちなくなるだけで……色気なんかなさすぎて。もうちょっとメイクとかも大人っぽくするべきかな。
ただでさえ……市ヶ谷さんには大人のジョークが通じない人と認定されてるし、娘同然にしか見られてないんだから……と、自分でダメだしして落ち込む。