ひとまわり、それ以上の恋
 バタンと音がして目が醒めた。そうそう、早く行かなくちゃ。市ヶ谷さんの家の前に、別のタクシーが停まってる。ドアが開いて男女が降りてくる。

 あれは……市ヶ谷さん、と知らない女の人。

 不意に、市ヶ谷さんがこちらを向いて手招きする。
 駆け寄ると、市ヶ谷さんに急に肩をぐいっと抱かれて、目が白黒した。

 え、な、何?

「そういうわけだから」

 何が、どういうわけ?

「分かったわ。びっくりするくらい若い子なのね」

 タクシーは再び女性を乗せて走り去った。

「あの……どういう」

「ごめん。しつこくてさ。一緒に暮らしてる子がいるって説明したら、本当かどうか見に来るっていうから」

「………」

 あ、そういうこと。モテモテの副社長は健在なんだ。そう思ったらなんか苛立ってしまった。

「その為に、私を使ったんですか。私は本気にしたのに。急いできたのに……」

「……ごめん。楽しんでいるときに。でも、君と今夜話をしたかったのは本当。あのスケッチブックを思い出して……どうしても会いたくなったんだ。邪魔しちゃったね」

「いえ……これ以上飲んだら、帰れなくなりそうでしたし」

 ぐらぐらしていると、
「うん、確かにふらついてる。大丈夫?」

 ほら、と腕を支えられて……ドキッとしてしまった。

 沢木さんには何も感じなかったのに……市ヶ谷さんだと、ダメみたい。
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