葵先輩は冷たい。
下唇をぎゅっと噛みしめる。
サラサラと、心地よい風が吹いて。
秋の香りが鼻を竦めた。
「ねえ、君。」
そっと顔に影が落ちる。
目の前には、やたらと顔が整った男の子がいた。
「なんで、すか?」
東中のブレザーを軽く着崩して、艶めく綺麗な黒髪を揺らす彼。
その爽やかな雰囲気に、あたしはゴクリと息を呑んだ。
ーーなんとなく、
彼が誰だか分かってしまったから。
「君… 空、見てたの?」
「………はい。」
「1人で?」
「………はい。」
「そっか。」
柔らかく笑う彼。
そんな彼に、あたしは眉を顰めることしかできなかった。
なんなんだ。
なんなんだ、ほんと。
なんなんだ……