葵先輩は冷たい。



あたしの隣に何の気なしに腰を降ろした彼。

思わず、顔をくしゃりと歪める。



ーー噂で聞いていた通りだ。

この人懐っこい雰囲気が故に、彼はきっと愛されているのだろう。


納得出来る。
出来るからこそ、苛立ちを覚えた。



彼のその爽やかな純真無垢な姿は、あたし自身の穢れや醜さを浮き彫りにするから。


ふいっと顔を逸らす。
直視するのが辛かった。



「あ。君、名前は?」

「………」

「……?」

「… 人に名前を聞く時は、自分から名乗るべきなんじゃないですか?」



八つ当たりだと分かってはいるものの、ついついキツイ口調になってしまう。本当、嫌な人間だ。


だけど彼は少しも嫌な顔を見せたりせず、そうだった… なんて笑ってみせた。

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