蒼穹の誘惑
(1)


浅野とデートの約束をしてからこの二日間、滅入りそうになる気分を払拭するようにみずきは仕事に集中した。

だが、時間が経つにつれ、やはり気は重くなる。

ビジネスの為だ、そう考えればいい。ましてや相手はみずきに好意を寄せている。

ピクニックよりも簡単なはず-----

みずきは、小さくため息を漏らし、視線を腕時計に落とす。

もう5時だ。今日はこれから楽しい浅野とのデートだ。

「社長、そろそろご支度されては?今度も浅野氏を待たせる気ですか?」

「分かっているわよ!」

「車は既に手配済みです」

「そう、ありがとう」

「せっかくのデートだというのに気乗りしないのですか?」

「イタリアンなのよねぇ。気も胃も重っ」

みずきはデスクの上に頭を投げ出す。このまま卓上でいいから眠ってしまいたい。

「社長---」

高宮の避難めいた言葉が頭上から降ってくる。

「さっさと準備してください。それと、そんな辛気臭い顔した女と誰がデートする気になりますか?」

人の気持ちも知らず、ずけずけと好きなことを言う。



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