蒼穹の誘惑
会議室のドアを閉めた高宮の表情は、いつもと変わらないポーカーフェイスを装っているが、どこか苛ついて見える。

これ以上あの空間にいることは耐えられなかった。

嫌悪感に吐き気すら込み上げてくる。

欲に溺れた老人は、血の繋がった姪を陥れることも厭わない。

単純なあの女(ひと)は、そんな叔父でも「そこまではしない」と信じているのだろう。

ビジネスの世界とは、男の嫉妬とは、醜いものだ。

みずきは思いもしないだろう、その歪んだ欲の渦に自分が呑みこまれつつあるとは----


「長谷川の家に生を受けたのが、彼女の運の尽きだ……」


自分に言い聞かせるように高宮は低く零す。

そして、次の行動に移るべく、エレベーターのボタンを押した。




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