蒼穹の誘惑
「みずきさん、最近よく来られますけど、お休み取れるようになったんですか?」

コーヒーのお替りを持ってきたウェイトレスの由美が優しい笑みを浮かべながら、「サービスです」と店長オリジナルの洋梨のタルトを差し出す。

「ありがとう。仕事のしすぎで疲れちゃったもの。少しくらい自分に休息与えなきゃね?」

『転職でもして喫茶店開こうかしら?』と冗談交じりに言えば、『仕事中毒なみずきさんには無理ですよ』とクスクス笑われた。

あながち冗談でもないんだけれど、と心の中で呟き、もし喫茶店を開くとしたら、従業員は全員かわいい女の子にしよう、と誓う。

「みずきさんが来てくださるから店長はりきっているんですよ。最近はさぼっていたケーキ作りにも力が入って」

「そうなの?」

「そうですよ!休暇が終わっても、週に一回は来てくださいね」

そうにっこり微笑む由美に、みずきは何も言えなかった。

みずきは、来週には日本を離れ、ニューヨークに戻る。

もう殆ど荷物は片付け、いつでもマンションを引き払える状態になっていた。



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