蒼穹の誘惑
「浅野氏は---―こほん、長谷川社長、あなたとプライベートな交際があったことを認めた上で、そのような関係から契約を締結するのはビジネスライクには適さないと……」

婉曲な表現で言葉を濁しているが、要するにみずきと体の関係を持ったからと言って、契約を結ぶ気はないと言いたいらしい。

「それで?」

みずきは全く動じず、西条を見据える。

その瞳の強さに、西条はゴクリと唾を飲み込み、続けた。

「浅野氏だけに関してのことでしたら、契約を見送るだけで事は済みますが、彼の父親がどなたかご存知でしょうか?」

西条の含みのある笑いに、やはりそう来たかと、みずきは覚悟を決める。

「彼の背後にはインターステイトカンパニーという後ろ盾がある。篠田氏と我社のパイプを脅かすことはできません」

西条はあつらえられた台詞を読むようにスラスラと反論する。

恐らく、つい数日前まで浅野の父親が誰かなど知らなかっただろうに。

浅野が『本意ではかなった』と告げたのは、このことだったと今更ながらに気付く。

「私たち役員は、あなたの退任を要求します。株主総会で、浅野氏に付属定款の第六条を行使されてはかないません」

「どうしてそんな突拍子もない話になるの?そもそも彼は第六条は行使できないわ。彼の持ち株は、2%も満たないはずよ?」

みずきは、全株主の持株率を調べ上げていた。その上位にいる会社名、人物についても調べたが、浅野の名前は上がってこなかったはずだ。



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