蒼穹の誘惑
もうこの男に用はない。

視界にも入れたくないくらいだ。

30分も経たないうちに、一気に老け込んだように見える。

焦燥感に肩を落とす栄次郎を見送り、静かにドアを閉めた。

「ひとつ終わった……」

そう低く零すと、高宮は倒れるようにソファに横になった。

最近寝ていないせいか疲労の色が隠せない。

食事もまともにとっていないせいか、神経が敏感に研ぎ澄まされていく。

空腹と睡眠不足は、普通の人間であれば、判断能力を鈍らせ、精神的に追い詰められるが、肉体的にも精神的にも鍛え抜かれた人間には、逆に作用する。

まるで野生の獣のように本能が鋭敏になり、極限の能力が引き出される。

目を閉じ、五分と休んだだろうか、高宮は立ち上がり、主のいない社長室を後にした。




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