蒼穹の誘惑
ドアが閉められると、仁科は、さて、とみずきに向き直った。

「強情なお嬢さんだ。あのお坊ちゃんも言っただろう?手荒なことはしたくない、と」

上から見下ろすその冷たい視線に、背筋が凍る思いがした瞬間、自分はかなり危険な状況に陥っていることに気付いた。

仁科は、ポケットからアーミーナイフを取り出すと、パチンと開きゆっくりみずきの首筋に当てる。

アウトドアで使うものとは異なるその鋭利さに、みずきはひっと声を漏らしてしまう。

「綺麗な首筋だな?ここに流れる動脈にこのナイフを一筋入れると人間はどうなると思う?」

みずきの顔が恐怖にひきつると、仁科はその刃先を首筋から鎖骨へと滑らせた。

「いや、プライドの高いあんたにはこっちの方が耐えられないかな?」

薄く笑うと、刃先を一気に下へ引き下ろす。その瞬間、みずきが着ていたワンピースのボタンが飛び、引き裂かれた。

ナイフを目線までもってくると、その刃先にはうっすらと赤い線が光っていた。

「俺としたことが、極上の女を前に手元がくるったか?」

胸元に視線を移せば、白く瑞々しい肌に1センチ程の赤い筋がつき、そこからじわりと血が滲んでいる。

痛みは感じない。もう身体全体が恐怖に麻痺しているのかもしれない。



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