蒼穹の誘惑
意外に中は広い。

ドアを少し開け、漏れる月明りを頼りに逡巡すると、ゆらりと人影が動いた。

高宮は左足をさっと引き、身構える。


(気配が、なかった)


「ほう、電話でも思ったが、かなりだな?」

意味のわからないことを呟きながら、その男は少し距離を取り、高宮の前に立った。

高宮は目の前に立つ男にさっと視線を走らせる。

歳は40前後といったところか。彫の深い柔和な顔立ちをしているが、その眼光の鋭さに、並みならぬ迫力がある。

「ご用件は何でしょうか」

「要件は二つだ。呑まなければ、長谷川みずきの命の保証はない」

「要件次第ですね」

高宮は、顔色ひとつ変えず、静かに答える。

「あの綺麗なお嬢さんがどうなってもいいと?」

「ですから、要件次第です。彼女にそこまでの価値があるかどうか判断するのは、それからです」

「くっくっくっ……面白いな」

男は嘲るように喉を鳴らす。



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