蒼穹の誘惑
食事の間は高宮は席を外していた。こんな会話は絶対に聞かれたくない。先週フレンチ三昧だった彼女が胃薬を飲んでいることも知っているのだ。またあの皮肉っぽい笑みが彼の顔に浮かぶかと思うと、それだけで胃がムカムカする。

ポワソン、ヴィヤンド、フロマージュ、とコース料理が終盤になるにつれ、みずきの胃のムカつきも最高潮になっていた。

デザートはいいからさっさと食後酒ですっきりさせ、商談に入りたい。

思いのほか、このかわいいイケメン社長との会話は楽しかった。大学在学中に企業するだけあって、頭も良く知識も豊富だ。また別の日にデートでも誘いたいところだが、今日の目的は違う。

もうこの表面上の会話にも飽きてきた。

デザートを運んできたシェフ・ド・ランがその説明をしようとしたとき、みずきはそれを手で遮り、一転してビジネスモードに切り替えた。

「これからビジネスの話になるので下がってください。ごめんなさい。日本だけよね、食事中にビジネスの話になるのは。でも時間がないのはお互い様。宜しいでしょうか?」

みずきの豹変ぶりに浅野は戸惑いを見せながらも冷静に切り返す。

「いいですよ。あぁ、もう2時近くですね。始めましょう」

切り返しの早い男は好きだ。それが好みの顔なら尚更だ。


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