蒼穹の誘惑
(1)


久しぶりの休日---春の温かい日差しを受け、みずきはオープンテラスのカフェで自分だけの時間を楽しんだ。

みずきのマンションから徒歩でも通えるこのカフェマシェリは彼女のお気に入りの場所のひとつで、ここのブレンドを毎朝購入してから出勤するのが日課になっていた。

ここにいる客の誰が思うだろう、みずきが普段はブランドスーツに身を固め、高級車を乗用するやり手の女社長だと。

みずきは世間一般のアラサーの部類に入る年齢に入っているが、まだ20代前半と言っても誰もが信じる。白いニットセーターにデニムと一見ラフな格好だが、それでも彼女の美貌は際立って目立った。

みずきはこのひとりの時間が好きだった。

何か特別なことをするわけでもない。本を数冊持ち込んで読書に没頭することもあれば、タブレットPCで、TwitterやFacebookをチェックし、情報収集をする。

ただ、この時だけは、「社長」という鎧を捨て、一人の「長谷川みずき」に戻れる時間なのだ。



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