道化師と菫の花/GIADOOLⅣ
マリア
 死の覚悟なんて、いつだって出来ていた。


 傭兵だっていうコトも自覚していた。


 だから、俺たちには最後の言葉なんてないと思っていた。


 あいつの死も・・・当然受け入れる覚悟ぐらい出来ていたはずだった。


 それだというのに・・・。


「まだ・・・・死にたくないよ・・・・。」


 マリアの最後の言葉を聞いてしまった。


 聞けるはずもないと思っていた。


 聞くこともないと思っていた。


 それなのに・・・あいつは、戦場ではなく、小さな病室で、ガンに侵された身体で・・・そして、なぜか、死のふちには、自分もソバにいて・・・。


 こんなこと・・・できるはずないと思っていた・・・。


 俺たちは兵士で、名もなき戦場で、名も知らぬ兵士に殺される。


 そういう運命・・・。



 そういう宿命でなければいけなかったのだ・・・。


「水練・・・私は、まだ死にたくないよ・・・やり残したことがたくさんあるの・・・。まだまだやりたいことが、たくさんあるの・・・。」


 そんなコトを言う資格が俺たちにあると思うな。


 そんなコトを望む資格が、自分たちにあると思うな・・・。


 ・・・・・そんな、冷たい言葉をかけられたら、どれだけ楽だっただろう。


 なのに・・・髪の毛が抜け落ちた、マリアが余りに無残で・・・。


 やせ細ったマリアの姿が、あまりに残酷で・・・。


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