誰を信じる?(ショートショート)
「……来る前に電話くらいしろよ……」
「いつ来たって同じじゃん」
午前11時。綾乃は約束通り、伸のマンションを訪れた。家事が一段落した午前中から遊べる友達というのは、なかなか貴重だ。
「寝てた?」
「……」
インターフォンで起きたところなのだろう。まだ顔が浮腫んでいる。
この、広すぎる家に住んでいるのは伸1人。だが、玄関に飾られている胡蝶蘭の造花は、埃ひとつかぶっていない。彼の性格は、家中のあちらこちらに出ていた。カーペット、いや、タオル一枚にも皺はない。
白を基調とするリビングには、高級ソファが液晶テレビに向かってきちんと並んでいる。この部屋は20畳はあるだろう。もちろんここ以外にも部屋はいくつかある。一体どういうつもりで、こんな広い家を借りたのだろうといつも思う。
綾乃は慣れたソファの感触を確かめながら座ると、欠伸をする伸に話しかけた。
「ここ……家賃30万だよね? でもさぁ、こんなに広くても無駄じゃん……」
「それ、前来たときも言った」
ソファに寝そべっていた伸は、ズバリとこちらを指さした。
「15万のところに引っ越して、残り15万貯金すれば1年で150万以上貯まるよ!? そしたら色々どっか行けるじゃん!」
「そーゆーのを、貧乏人の発想ってゆーんだよ」
「貧乏人じゃなくて、普通の人の発想だよ」
「まぁ、そうだな……。年収800万以下は普通だからな。でも、俺の中では普通を貧乏とゆーんだ」
もちろん今の伸の年収は800万円以上ある。時によれば、並木の年収など彼の2分の1だろう……。
「……あっそう。なんかさ、伸ちゃんが貧乏貧乏って言うから、私たまに、本当に自分が貧乏なんじゃないかって思うときがあるのよね」
「胸も貧相だしな」
伸は、ケケケと笑いながら、髪をかきあげた。
「で? あのオタッキーは最近どうなんだよ? 相変わらずオタクやってんのか?」
オタッキーというのは、もちろん伸なりの妥協の証でもある桜木のニックネームである。伸はそもそも桜木との結婚は反対で、結婚式当日もまだ今なら間に合うと呟いていたくらいだった。
「やってるよ」
「でも、何やってんのか知らないんだろ?」
「……別に、そんな変なことはしてないよ」
「分っかんねぇぞ? 気がついたらその辺、猫の首ナシ死体が転がってたりして……」
伸は目を細めて綾乃の顔色を伺った。
「ないない。だって、それだと匂いするでしょ」
「それをだな。薬品を大学から持ってくるんだよ。消臭剤(笑)。で、そのうち『綾乃……頼むから実験台になってくれ……』って言われるんだけど、断って殺されるの(笑)。いや、待て。お前、今なんて呼ばれてるの?『綾乃』?」
「えっ、うーん……時によって、違うかな……」
「『なぁ』とか『おい』とか?(笑)」
「う~ん……」
「ほんとに結婚してんのか、お前ら(笑)」
「いつ来たって同じじゃん」
午前11時。綾乃は約束通り、伸のマンションを訪れた。家事が一段落した午前中から遊べる友達というのは、なかなか貴重だ。
「寝てた?」
「……」
インターフォンで起きたところなのだろう。まだ顔が浮腫んでいる。
この、広すぎる家に住んでいるのは伸1人。だが、玄関に飾られている胡蝶蘭の造花は、埃ひとつかぶっていない。彼の性格は、家中のあちらこちらに出ていた。カーペット、いや、タオル一枚にも皺はない。
白を基調とするリビングには、高級ソファが液晶テレビに向かってきちんと並んでいる。この部屋は20畳はあるだろう。もちろんここ以外にも部屋はいくつかある。一体どういうつもりで、こんな広い家を借りたのだろうといつも思う。
綾乃は慣れたソファの感触を確かめながら座ると、欠伸をする伸に話しかけた。
「ここ……家賃30万だよね? でもさぁ、こんなに広くても無駄じゃん……」
「それ、前来たときも言った」
ソファに寝そべっていた伸は、ズバリとこちらを指さした。
「15万のところに引っ越して、残り15万貯金すれば1年で150万以上貯まるよ!? そしたら色々どっか行けるじゃん!」
「そーゆーのを、貧乏人の発想ってゆーんだよ」
「貧乏人じゃなくて、普通の人の発想だよ」
「まぁ、そうだな……。年収800万以下は普通だからな。でも、俺の中では普通を貧乏とゆーんだ」
もちろん今の伸の年収は800万円以上ある。時によれば、並木の年収など彼の2分の1だろう……。
「……あっそう。なんかさ、伸ちゃんが貧乏貧乏って言うから、私たまに、本当に自分が貧乏なんじゃないかって思うときがあるのよね」
「胸も貧相だしな」
伸は、ケケケと笑いながら、髪をかきあげた。
「で? あのオタッキーは最近どうなんだよ? 相変わらずオタクやってんのか?」
オタッキーというのは、もちろん伸なりの妥協の証でもある桜木のニックネームである。伸はそもそも桜木との結婚は反対で、結婚式当日もまだ今なら間に合うと呟いていたくらいだった。
「やってるよ」
「でも、何やってんのか知らないんだろ?」
「……別に、そんな変なことはしてないよ」
「分っかんねぇぞ? 気がついたらその辺、猫の首ナシ死体が転がってたりして……」
伸は目を細めて綾乃の顔色を伺った。
「ないない。だって、それだと匂いするでしょ」
「それをだな。薬品を大学から持ってくるんだよ。消臭剤(笑)。で、そのうち『綾乃……頼むから実験台になってくれ……』って言われるんだけど、断って殺されるの(笑)。いや、待て。お前、今なんて呼ばれてるの?『綾乃』?」
「えっ、うーん……時によって、違うかな……」
「『なぁ』とか『おい』とか?(笑)」
「う~ん……」
「ほんとに結婚してんのか、お前ら(笑)」