月とバイオリン
 すい、と目をそらし、メアリーアンは応えずに歩き出した。

口元に瞬間、笑みを浮かべてしまったのをシェリーが気付いてしまったかもしれないと、失敗を悔やみながら早足で。


 見られてはいなかった。

踊り場でくるりと回り、光に目を細めた頃に、追いかけて声が届いた。

「本当よ」


 約束の念押しが届いても届かなくとも、信用の度合いに差異はない。

追いかけようかと踏み出した足を元へと戻し、こみ上げてくるおかしな気持ちにシェリーは笑ってしまっていた。

笑い続けていたなら、涙があふれそうな笑いだった。

頬を包んだメアリーアンの手のあたたかさも、握ったリースの手のあたたかさも、感じることのできる自分が愛おしい。

そんな思いが一人では抱えきれず、収拾がつかなくなってしまいそう。
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