暁に消え逝く星
「……」
ここもやはり、自分の居場所ではないのだと、イルグレンは実感した。
当然のことだ。
国を追われた皇子に、今更なんの価値がある。
皇国の内情が近隣諸国に知れ渡り、すでに数か月が経っているのだ。
だが、自分がまるで皇位を望んでここに来たと思われているのは嫌だった。
皇国での復権など、考えたこともない。
皇子という身分さえ、いつも場違いなように感じていたのだ。
自分が皇帝になって、何をするというのだろう。
自分はただ、生きるために国を出てきただけだったのに。
だが、周囲はそのように見てはくれないだろうし、それゆえの不安は、あらゆる憶測といらぬ誤解を招くことになる。
災いの種にしかならぬ自分に、今度はイルグレン自身が大きく息をついた。
「――」
このまま道なりに進んで中央に出ることはせず、イルグレンは姿を隠すように道を外れてさらに奥へと向かう。
中庭の西側の開けた場所に足を踏み入れると、そこには先客がいた。
5人の侍女を従えて、池の周りを歩いている。
どうやら高貴な身分の姫らしい。
今の自分を見られてはまずいのではないかと思い、気づかれぬように踵を返す。
が、装飾の首飾り同士がぶつかり、音を立てた。
思わず舌打ちしたくなったが、あえて気づかぬように戻ろうとした。
「イルグレン様?」
思いもかけず名を呼ばれ、イルグレンは足を止めた。
振り返る。
自分を呼んだのは美しい姫だった。
抜けるような白い肌に金糸の髪。
空の青を映したような瞳。
その姿を知っていた。
送られた絵姿で見たままの姿だった。
「公女殿下――」
自分の、婚約者だ。